驚くほど、やさしく

日々を生きている。なにかの拍子におもいだす、こころを貫く痛みにはまだ慣れないけれど、生活は以前よりもずっと静かで、わたしは、おだやかな空に浮かぶ雲。

 

これまでに幾度も実感したおわりが、ついに訪れたような気がした。

大切、という言葉の意味を考えてみる。それはもしかすると、いまのわたしにとっては未練や執着と同義かもしれなかった。どうしても、ずっとずっと手放せないものがあって、そこには温度もやさしさも既にないとわかっていたはずだけれど、昔にみた夢を忘れられないわたしはもう一度その夢をみる方法を探して、何度も何度も目をつむり眠りに落ちようとしていた。けれど、落ちた先にあるのは違和感と冷たいこころ、再び目を開ければまたいつもの生活が待っていた。

そんなずるいわたしを、きっとぜんぶ見透かされていた。わたしが生まれてはじめて、まともでいたいと感じた相手だったはずなのだけれど。気づいたときには、ずるいわたしに戻って、醜い姿で出口を塞いでいた。

 

温度がないことは、おそろしいほどの残酷さを運ぶ。這い上がって、やさしくならなければいけないなあ。