夢をみたくないなら、眠るのをやめろ

幻をみていた。あたたかくて、やさしい夢だったようにおもうけれど、目が覚めたわたしは驚くほど傷だらけで、身体中がいたかった。

泣きながらみた夢をわすれられなくて、ずっと、どうしても引き返すことができなかった。ずっとずっと、誰に何を言われなくたって、わかっていた。行動が伴わないあなたはやっぱりわかってなかったんだよ、と言われるかもしれないけれど、それでもわかっていたとおもう、あるいた先に何もないこと。麻薬みたいだね、とお互いを表現した。得られる快感はとてつもなくおおきかったけれど、すり減らされたこころや傷つけられたプライド、奥の方まで突きささる痛みに、全身が引き裂かれた。それでもわたしは、おいしいねと微笑みあって食べたごはんを、足を絡ませてねむった蒸し暑い夜を、動物みたいに夢中で求めあったセックスを、無かったことにはしたくないとおもっている。

空を見上げて、きれいだね、っていっしょに笑いあえるほど、美しいことはないでしょう?

 

でも、訪れた平穏の大切さを、わたしはちゃんと覚えていたみたい。ひとりでねむる夜は、冷たく、さみしいけれど、火照る身体と交わす熱だけが真実ではないということを知った。削られていく心臓と、尖っていくじぶんの言葉にもう嫌気がさしてしまった。どんな生活にも痛みがあるのだとしたら、すくないほうを選んで生きていかないと、ボロボロになってしまうよね。

 

すきなひとの名前をよぶ。

ちいさな公園、おおきなくじらのすべり台。変な形のベンチに座ってビールを飲んだね。なんとなく揃ったふたりの歩幅に、ちょっぴりゆるんだ頬。ぜんぜん洗ってなくて臭くなった靴下だって、どうしようもなく愛しかった。