静かに眠りたい

ずっとずっと、逃げ道をのこしながら前にすすんでいるフリをしていた。やっとだね やっと、わたしに絡みつくすべての幻を振り払って、じぶんの足で立とうとしているね、しているよね?苦しくて、いたくて、何度も泣いたけれど、どうしようもないほど幸せできつくきつく抱きしめておきたい時間も、たくさんあったとおもう。もう一度戻りたいとわたしが願うことがないように、身を引き裂かれるような苦しさに眠れない日が来ることがないように、身体を蝕む黒い感情に押しつぶされることがないように、とまることをしらない涙に視界がかすんで何も見えなくなることがないように、思い出すべてに、過去、と名前をつけた。ここからは、新しい世界。

 

もう会わないと何度目かの決意をした日に書いた文字。何度も踏み出そうとした一歩は、また粉々に打ち砕かれている。わたしって、ほんとうにどうしようもないくらい弱いなあ。

 

ざらざらしたこころをなぞるみたいに、優しくかさぶたをはがしてみる。その先にあるのは、流れる血。すきと伝えることに勇気がいらなくなった世界はあたたかいと言ったけれど、ほんとうはそんなのうそで、ひかる画面をずっと見つめて、汗ばむくらいの力でこのうすっぺらい機械を握りしめていた。それでも、あふれる気持ちを地面に落としてしまうのは嫌だった。すきなひと一色の世界に生きること。足のつかないプールで息ができなくなるわたしは、苦しくてやっぱり泣いてしまうけれど、わたしを照らす太陽が眩しくて、たまらなくやさしい日もあることを知らないわけじゃない。

ほんとうのことを言うと、わたしにはまだ、よくわからないことの方がおおい。苦しさと愛しさのせめぎあい。この感情につけた名前。目覚めた朝に感じるいたみ。だれかと深い関係になるということは、じぶんの弱さや至らない部分と向き合うことと同義におもえる。それをする強さがわたしにはなく、目の前に立ちはだかるいたみをどうにかして取り除く、みたいな そういう刹那的な回避方法しか持ちえていない。

 

ぜんぶぜんぶ、わからないんだよ。あした、笑顔で過ごせるのかなあ、と困り果ててしまう生活は、したくないのにな。