あしたはとびきりかわいいわたし

今日のわたしは、じぶんで言うのもなんだけどめちゃくちゃかわいくない。ベッドから起き上がっていちばん近くにあった服を着た。いつもより20秒くらい短い歯磨きをして、人に不快感を与えないレベルのメイクを5分で施して、わたしを取り巻く暗くて嫌な空気から逃げ出すように駆け足で家を出た。外の光がめちゃくちゃ眩しくて、びっくりするくらい空気が冷たくて、動けなくなった。会いたいとか恋しいとか寂しいとか、わたしを苦しくさせるぜんぶの感情を振り払うように自転車のペダルを漕いだ。

 

わたしは驚くほどふつうで、わたしだけを形容するような言葉がこの世界にはないことも知っている。みんなが感じることを感じて、みんなといっしょに顔をしかめて、みんなが泣いてるときに悲しいきもちになるんだとおもう。それで、しあわせだけに置いていかれている気がする、みたいな被害妄想をみんなと同じようにして、ひとりだけ苦しくなってるつもりになるんだとおもう。あー、ダサいな。人間がもっと上手に生きられる生き物であればよかった。いろんなことを心で消化して、世界にあふれる言葉たちをわたしのものにして、誰も傷つけない文字を紡いでずっと笑っていられる世界に生きたかった。

わたしが言いたいのはそういうことじゃないんだけど、みたいな瞬間が増える。増えるたびに伝わらないもどかしさに心臓がどんどん小さくなっていくのを感じていた。どうやったら伝わるのかな、ではなくて、どうして伝わらないんだろうと苛立つしかできない小さな心臓がわたしの体の中でとくんとくんと脈を打っている。こんな意味のない文章を書き連ねるんじゃなく、はじめて買ったコンビニのおにぎりがおいしかったとか、好きな曲が増えたとか、ふわり、前を歩く人からすごくいいにおいがしたとか、そういうことにもっともっと時間を使っていたいのに。苦しいと泣くよりも、するべきことがたくさんあるのに。

わたしを肯定してくれる"何か"がまだわからない。どんな理由をつけてわたしは生きていこう、と悩んでいる。わたしには、物事を大袈裟に捉えて悲劇のヒロインぶることしか能がない。言ってしまえば無能なわたしは、きょうも東京駅の長いエスカレーターが下までわたしを運ぶ数十秒を待ちきれず、履き古したコンバースで駆け降りる。日常を繰り返すことだけが、いまのわたしにできる精一杯なのかもしれない。